精子ものがたり

これは受精において精子と卵子が出会うまでのストーリーです。

旅立ち篇

卵子に会うために1回約3億の精子が3日間の命を与えられ一斉にスタートします。大柄でおっとりしている精子ヤマト君と体は小さめだが機敏なタケル君もその中にいました。
彼らにはこれから、さまざまな関門が待ち受けています。それは良い精子の選別作業が行われているからです。排卵のタイミングがジャストタイミングでも精子ヤマト君とタケル君たちには致命的な落とし穴がつぎつぎと待っています。
まず、受精できる場所までは気の遠くなる長さです。それも女性の体内の動きとは逆方向に泳がねばならないのです。まさにサケが産卵のために川の上流にさかのぼる状態です。
精子は毎分2~3ミリのスピードから1cm程度のスピードで進みます。第一関門の膣は酸性が保たれています。精子にとっては最悪の環境です。精子は生まれ出るときにアルカリ性の洋服を着せられて出てきていますが最悪には変わりがないのです。
ヤマト君もタケル君も早く抜け出なくてはと必死で直進してスピードアップしています。周りを見るとスピードの遅いヤツや動いているが同じところばかりをぐるぐる回りながら動いているのもいます。
白血球に取り込まれ食べられてしまうとそこには死が待っています。二人ともそれらには目もくれずに子宮へと泳いでいきます。
ふと、振り返ると仲間の大半は死んでしまっています。もう、最初の数の1000分の1位の30万の数までに減少しています。『みんな僕たちの犠牲になってしまった。皆の分まで頑張ろう!』と励ましあいながらヤマト君とタケル君は子宮へと泳ぎ続けます。

シキュウ篇

子宮の入り口の頸管は非常に堅い守りになっています。通常は入り口は細く閉じられていて入れませんが排卵の時期には頸管粘液の栓がゆるみ普段の10倍もの分泌をします。ママの子宮も何とか彼らを生き残らせようと働きかけてきます。
ヤマト君、タケル君たちはこの粘液を利用してスルリと頸管の入り口を突破します。頸管の中はまるで、海草が生い茂る海のようです。二人はその中を足をとられないように注意深く子宮の上の方へと進んで行きます。
子宮に入れてホッとしたのもつかの間、力つきてしまうもの、道を見失うものの連続です。精子たちの旅はなんと過酷でしょう。もう仲間達は最初の数の5000分の一、約6万までになっています。
さて彼らはここで大きな選択をしなくてはなりません。卵管と卵巣は左右二つあります。どちらから卵子が来るのか解らないのです。ヤマト君とタケル君は何となく右に呼ばれている様な感じに思い、右にすすむ一団を選びました。もし、こちら側に卵子が来ない場合はそこで息絶える事になります。

ランカン篇

卵管の入口が見えてきました。この道が正しくとも更に厳しい試練が待っています。卵管内は細かい絨毛と筋肉で排卵された卵子を子宮まで送る様に出来ています。最初の逆流よりももっと登っていくのが困難です。卵子の受精寿命は24時間あります。しかし排卵して8時間もすると老化が始まってしまいます。時間は限られています。その前に行かなくては・・・。
『早く行かなければ間に合わない!タイムリミットは間近だ。』
『パパからもらったターボエンジンを使って最後の力を振り絞るんだ。』

このターボエンジンはミトコンドリアと言います。これが優秀でないと最後までは到達できません。みんな傷だらけになりながらも上に上にと昇っていきます。卵管にしてみれば彼らは侵入者です。ここでも白血球が目を光らせて彼らを食べようと待ち構えています。また、卵管の壁はデコボコ、そこにぶつかったりして、息絶えるものもたくさんいます。ヤマト君とタケル君は決死の覚悟でまっすぐに進みます。目的地の卵管の最終地、卵管采(らんかんさい)はもうすぐそこです。ああ、仲間たちは100まで減少してしまいました。その中の誰かが卵子と結ばれます。手を大きく広げたような形の卵管采は放出された卵子をしっかり包み込み精子たちを待ち受け受精の準備をしています。

受精篇

ヤマト君とタケル君たちの前方に白く光っているものがあります。
『ウォー、あれが卵子のユメちゃん!きれい!』
ユメちゃんに向かって皆が先を争っていきます。残っているものがユメちゃんの周囲を取り囲みます。卵子に引き寄せられるようにヤマト君とタケル君は協力して突進します。透明帯の膜が卵子を守っています。これを破って通過できるのは最初の精子だけです。精子は透明帯の受容体部位から入れるようにデザインされています。
『タケル君が一番乗りだ!』
ヤマト君はほんの少し先に行っているタケル君に叫びました。
『早く、頭をつけて自分の酵素で卵子の膜を溶かすんだ!』
とヤマト君が声を振り絞っています。タケル君が頭を入れた瞬間、途端にユメちゃんは膜の電荷を変えて封印してしまいました。競争相手のヤマト君と精子たちは振り落とされていきます。5分も経たないうちに永久的な扉が閉まりました。こうやって24時間かけて受精は確立しました。そして、締め出されたヤマト君達はしばらく受精卵にまとわりついていますが、皆息絶えてしまうのです。

こうして結びついた受精卵は受精直後から倍分裂をしながら成長し、3~4日かけて子宮に到着します。同時に子宮内膜では血管を新しく作り、粘液を盛んに出して着床の準備を整えます。フカフカの子宮ベッドの上に6日目頃に着床します。そこからタケル君とユメちゃんは38週間じっくり成長していき出産を待ちます。

追記

精子はたまご型をした睾丸で製造され毎日1億作られています。精子を生産するには体温より低目が理想的なので体の外部にあります。作られた精子は副睾丸で貯蔵され10日ほどかけて熟成します。このあと精管の中で眠って活力を維持します。精子の体は0.05~0.07ミリ、構造的には遺伝子(DNA)が詰まっている頭部とエネルギー貯蔵庫の首と長い尾で出来ています。貯蔵されているエネルギーを使って長い尾でしっかり泳いでいきます。
このような受精までの経過には良い卵子と子宮環境、元気な精子を作る事が必須です。

漢方薬での改善は男性も女性も温かい血流にしていく事が重要ですが、それだけでなく、様々なところに働きかけます。
精子は毎日造られていますから、漢方薬の働きかけにより直進力のある元気な精子に変わってくるでしょう。また、女性も精子を応援するために子宮や卵管を通過する時の粘液の質、量、狭い卵管の弾力をつける事も必要になります。

参考資料
●からだの地図帳(講談社)
●こうして生まれる(ソニーマガジンズ)
●まんが驚異の小宇宙人体(小学館)

卵子のユメちゃんが精子のタケル君と出会い受精するまでのストーリーです。